コラム

自治体DXとは?推進のポイントや行政の事例をわかりやすく解説

自治体DXとは

自治体DXとは、自治体が最新のデジタル技術を活用してこれまでアナログで運用していた業務を効率化し、地域住民の利便性向上を目指す取り組みです。自治体の担う業務が年々増加する中、DXを推進することで自治体の課題解決につながるとして、国からもその重要性が発信されています。本記事では、自治体DXを推進する際のポイントや、DXを活用した行政の事例などを解説します。

自治体がDXを推進する必要性

「DX」とは、Digital Transformation(デジタル トランスフォーメーション)の略で、データやデジタル技術の活用によってビジネスやサービスに新たな価値を創出していくことです。
(参考:「経済産業省による「DX推進ガイドライン」とは?内容とDX推進の流れを解説」)

2021年9月1日には、行政手続きのオンライン化などを担う「デジタル庁」が創設されました。今、企業だけでなく自治体でも最新のデジタルテクノロジーを活用し、住民に提供するサービスや業務フローなどを変革させることが求められています。企業のDXは競合企業に対する競争力を高め、企業価値を向上させるために行われていますが、自治体DXでは既存のアナログ化しているサービスや業務フローを変革することで、住民一人ひとりにしっかりと行政サービスを届けることを目的としています。

総務省が推進する「自治体DX推進計画」

総務省では、2020年12月に「自治体DX推進計画」を発表。「自治体DX推進計画」とは、「デジタル・ガバメント実行計画」における各施策について、自治体が重点的に取り組むべき事項や内容を具体化し、総務省および関係省庁による支援策などをとりまとめたもので、デジタル社会の構築に向けた取り組みを、全自治体が着実に進めていくことを目的に策定されています。
(参考:総務省「『自治体デジタル・トランスフォーメーション(DX)推進計画』の策定」)

この中で、「自治体DX推進計画の意義」として、「デジタルの活用により一人ひとりのニーズに合ったサービスを選ぶことができ、多様な幸せが実現できる社会~誰一人取り残さない、人に優しいデジタル化~」というビジョンが示され、この実現のためには、住民に身近な行政を担う自治体、特に市区町村の役割は極めて重要だとされています。自治体において、「デジタル技術やデータ活用などを取り入れた行政サービスを行うことで住民の利便性を向上させること」、また「業務効率化による人的資源を行政サービスの更なる向上につなげること」が求められており、今後、企業のみならず自治体でのDX推進の動きが加速していくと予想されます。

また、「自治体DX推進計画」では、情報システムの標準化・共通化やマイナンバーカードの普及促進、行政手続オンライン化などを自治体DXの重点取組事項として挙げています。自治体がこれらの重点取組事項を計画的に取り組むことができるよう、総務省はシステム導入などにかかる経費を補助する「デジタル基盤改革支援補助金」を制定しており、住民の利便性向上や行政運営の効率化を進めています。自治体DXを早期に整備し運用するため、こうした補助金の活用を検討するのもよいでしょう。
(参考:「デジタル基盤改革支援補助金(自治体オンライン手続推進事業)執行Q&A(第1版)」)

DXで解決できる自治体の課題

DX推進に取り組む前に、現在自治体ではどのような課題を抱えているのでしょうか。DX推進により解決につながる、自治体の課題を見ていきましょう。

労働人口の減少による未着手業務の増加

日本の総人口は2008年をピークに減少し続けており、この状態が続けば2050年には1億人を下回ると予測されています。出生率の低下により、15歳から64歳までの生産年齢人口も減少しているため、自治体サービスを十分に提供するための人手不足が課題となっています。人手不足が深刻化すると未着手業務が増加し、自治体から住民へのサービス提供が遅れ、生活に不便さが生じることも考えられます。自治体でもDXを推進して業務の効率化を行うことで、職員の時間が有効活用でき、未着手業務にも手が回る状況が作れるでしょう。

アナログ文化

自治体にはまだ多くのアナログな文化が残っています。特にこれまでは紙を使った業務プロセスが主軸となっており、書類のやり取りや保管などに課題を抱えている自治体も少なくありません。多くの企業がデジタルを活用した業務プロセスに移っていることもあり、住民にとってもデジタル活用は一般的な考えになっています。自治体サービスをDX化することで、業務プロセスの改善のほか、効率的なサービスの提供につながります。

自治体DXを推進するポイント

自治体がDXを推進するためには、どのようなことに留意したらよいのでしょうか。

組織全体での体制構築

自治体DXは、住民一人ひとりにきちんと行政サービスを提供できる体制を構築することが必要です。そのためには、一つの部署だけでなくさまざまな部署が意見を出し合いながら、自治体全体でDX推進に向けた施策を検討することが必要です。より住民のニーズを反映した施策検討ができるでしょう。

DX推進のための計画策定

アナログ文化が残っている自治体の場合、DXの浸透にはある程度時間がかかることも見込んでおかなければなりません。短期的・長期的な計画を策定しておくことで、自治体職員が取るべき行動が明確になります。また、策定した計画を住民に公開することで、自治体への期待感にもつながります。

デジタル人材の確保と育成

DXを推進するには、ITなどのデジタル分野にリテラシーのある人材の採用と育成が必要です。しかし、デジタル人材不足が社会的にも課題となっていることから、すぐに採用に結びつかないことも考えられます。このことから、デジタル人材の採用に加えて既存職員のデジタル人材への育成も視野に入れておくとよいでしょう。

DX推進に取り組んだ自治体の事例

実際に、DXを推進して業務効率化や利便性の高いサービスを提供している自治体を紹介します。

【山形県】電子申請サービス導入で行政手続のオンライン化

山形県は行政手続きのオンライン化を図るため、2020年に「やまがたe申請」という電子申請サービスを開始しました。児童手当に関する届出や、粗大ごみの収集申込みなどの各種行政手続きの申請・届出の受付ができる他、申込者への連絡メールを一斉送信できるなど、業務の効率化を実現しています。

【福岡県会津若松市】市民からの問い合わせにAI技術を活用

会津若松市では、コミュニケーションアプリを活用した「LINE de ちゃチャット問い合わせサービス」を開始。市民からのよくある問い合わせや、各種証明書発行手続きの仕方などを対話形式で24時間自動応答が可能です。役所が開いていない土日や夜間でも問い合わせができるようになり、市民の利便性が向上したことに加え、簡易的な問い合わせに職員が対応する時間の削減にもつながったようです。また、AI導入により問い合わせ内容や件数、問い合わせ者の年代や属性などのデータを自動で集めることが可能となり、よりよいサービスへの改善にも役立てているそうです。

【北海道北見市】「書かない窓口」を実現し窓口業務を改善

北海道北見市では、市役所来庁者が書類を書かずに申請書などを作成するシステムを導入。これにより来庁者は申請書に申請書に署名をするだけで手続きが行えるようになった他、市役所内の他の窓口を回ったあとや再来庁の際にも申請内容が引き継がれ、スムーズな対応を実現しました。また、「窓口課」を新設し、証明書やライフイベントの際の手続きをまとめて受付できる仕組みを構築しています。

先進自治体の事例を参考に、DXを始めよう

労働人口の減少などが進み、今後DXを推進する自治体は増加していくことが予想されます。すでにDXで業務を効率化し、住民によりよいサービスを提供している自治体もあります。今回紹介した事例を参考に、住民の暮らしやすさを実現する自治体のDXに取り組んでみてはいかがでしょうか。