コラム

東京都によるインキュベーション施設運営計画認定事業と補助事業を徹底解説

インキュベーション徹底解説

インキュベーション施設とは、創業初期段階の起業家を支援する施設です。事業の拡大や成功を支援する目的のもと、通常よりも安価な賃料で事務所スペースを提供したり、事業の立ち上げに関する専門家(インキュベーションマネージャー)によるサポートを提供しています。本記事では、東京都が実施する「インキュベーション施設運営計画認定事業」と、東京都中小企業振興公社が行う「インキュベーション施設整備・運営費補助事業」について解説します。

創業支援(インキュベーション)施設が活用できる2つの事業

東京都では、都内開業率を上昇させるという政策目標達成に向け、2015年度から「インキュベーション施設運営計画認定事業」を実施しています。同時に東京都中小企業振興公社では「インキュベーション施設整備・運営費補助事業」を実施し創業支援を行っています。
(参考:東京都産業労働局「インキュベーション施設運営計画認定事業」)

東京都|インキュベーション施設運営計画認定事業とは

 東京都が実施する「インキュベーション施設運営計画認定事業」は、民間事業者等による創業支援の取り組みを後押しするものです。創業支援施設(インキュベーション施設)の運営等に係る事業計画のうち、一定の基準を満たしたものを認定しています。

東京都中小企業振興公社|インキュベーション施設整備・運営費補助事業とは

東京都中小企業振興公社が実施する「インキュベーション施設整備・運営費補助事業」は、都が認定した事業のうち優れた取り組みに対して、施設運営のレベルアップに必要な整備・改修及び運営に関する経費の一部を補助するものです。補助を受けることで、個室の整備、インキュベーションマネージャーの雇用、セミナーや勉強会の開催等、入居者の創業を後押しする環境整備が可能となります。

事業認定を受けることで得られるメリット

東京都が実施する「インキュベーション施設運営計画認定事業」により事業認定を取得することで、以下のようなメリットを得られます。

(1)東京都ホームページにおいて認定事業(施設)が紹介される。
(※掲載先:東京創業労働局「東京創業NET 認定インキュベーションオフィス」) 
(2) 認定事業者等の交流会(勉強会)に参加する機会がある。
(3) 認定事業者のうち、中小企業者等の団体は、(公財)東京都中小企業振興公社の「インキュベーション施設整備・運営費補助金」への申請が可能。
(※事業認定取得以外にも必要となる「申請要件」あり)
(4)事業の認定を受けた施設の入居者は、(公財)東京都中小企業振興公社の「創業助成金」への申請が可能。

認定の対象となる施設区分

インキュベーション施設運営計画認定事業の認定区分は、3つに区分されています。それぞれの定義は以下のとおりです。

認定区分定義
一般向けインキュベーション施設インキュベーション施設のうち、託児付きインキュベーション施設及び分野特化型インキュベーション施設を除いた施設
託児付きインキュベーション施設インキュベーション施設のうち、主に子育て中の者に対する創業支援を行う施設
分野特化型インキュベーション施設インキュベーション施設のうち、専門的な設備及び分野特化の支援ができるインキュベーションマネージャーを有し、創業支援を行う施設

認定区分によって申請できる施設条件は異なります。申請する施設がどの区分に属するのかを理解した上で手続きを進めましょう。

「インキュベーション施設運営計画認定事業」の申請条件

実際に、それぞれの区分での「必須要件」にはどのような違いがあるのでしょうか。3つの区分共通の「申請資格」などとあわせて、各区分ごとの申請条件を解説します。

なお、申請後の認定対象期間は「認定決定通知の日から8年を経過した日の属する年度末の末日まで」とされています。例えば、令和4年度に認定された場合、認定決定通知の日から、令和 12年度の末日(令和13年3月31 日)までが対象期間です。

申請資格

申請するには、どの区分でも次の(1)~(5)のすべてを満たしている必要があります。

(1)会社、区市町村、一般社団法人、一般財団法人、公益社団法人 、公益財団法人、大学、地方銀行、信用金庫、信用組合、特定非営利活動法人、労働者協同組合のうち、いずれかの団体であること。
(2)都内にインキュベーション施設を有している、又は有する予定であること
(3)申請時点において、過去1年間以上、創業支援の実績を有すること。
(4)創業支援に係る継続的かつ具体的な運営計画を有すること。
(5)当該施設が建築基準法・消防法等各種法令に適合していること。

(参考:東京都産業労働局「インキュベーション施設運営計画認定事業」)

必須要件(施設面)

必須要件には、「施設面」と「運用面」の2つの観点でルールが設けられています。このうち、「施設面」の必須要件は認定区分ごとに異なるため、注意が必要です。なお、認定決定までには、申請書類に基づき、この必須要件について審査が行われます。詳細については最新の募集要項を確認しましょう。
(参考:「令和4年度 インキュベーション施設運営計画認定事業 インキュベーション施設整備・運営費補助事業【 募集要項 】」)

一般向けインキュベーション施設

令和4年4月1日時点で事業開始している施設が対象です。
<施設面>
・オフィススペース(個別の貸事務室、コワーキングスペース、ブース席、会議室、イベントスペース等)として供する面積の合計が100平方メートル以上(内法)であること。
・創業前又は創業5年未満の入居者が常時入居することを前提としていること。
・関係法令を遵守した施設であること。
・工事計画は、施設運営のレベルアップに寄与するものであって、認定後1年以内に着工するもの又は申請時点で竣工していないものであること。

託児付きインキュベーション施設

令和4年4月1日時点で事業開始している施設が対象です。
<施設面>
・主に子育て中の方で、創業前又は創業5年未満の入居者が常時入居することを前提としていること。
・子育て中の方を主な対象としたインキュベーション施設であることを明示し、子育て中の起業家の積極的な利用に繋がるよう努めること。
・子育て中の方でも利用できるように、託児スペース等を有すること。
・オフィススペース(個別の貸事務室、コワーキングスペース、ブース席、会議室、イベントスペース等)として供する面積の合計が50平方メートル以上(内法)であること。
・関係法令を遵守した施設であること。
・工事計画は、施設運営のレベルアップに寄与するものであって、認定後1年以内に着工するもの又は申請時点で竣工していないものであること。

分野特化型インキュベーション施設

<施設面>
・分野特化型インキュべーション施設であることを明示し、その分野の起業家の積極的な利用に繋がるよう努めること。
・分野特化の専門的な設備を有すること。
・オフィススペース(個別の貸事務室、コワーキングスペース、ブース席、会議室、イベントスペース等)として供する面積の合計が50平方メートル以上(内法)であること。
・関係法令を遵守した施設であること。
・工事計画は、施設運営のレベルアップに寄与するもの又は新設のためのものであって、認定後1年以内に着工するもの又は申請時点で竣工していないものであること。

必須要件(運営面)

運営面での必須要件は3区分とも共通のルールが設けられています。いずれの区分に申請する際にも以下の要件を満たす必要があるので、確認しておきましょう。

<運営面>
・申請者に創業支援の実績が1年以上あること。
(過去1年間以上、広く不特定多数の起業予定者等に対する具体的な創業支援実績を有すること。※特定の事業に限定した支援や連携・協力事業者等への支援は創業支援実績には含まない。)
・分野特化の支援ができるIM(インキュベーションマネージャー)の配置が具体的に計画されていること。
・暴力団関係者の入居を排除していること。

「インキュベーション施設整備・運営費補助事業」の申請条件

東京都中小企業振興公社が実施する「インキュベーション施設整備・運営費補助事業」の申請条件は以下のとおりです。なお、東京都が実施する「インキュベーション施設運営計画認定事業」にて認定を受けることができなかった場合には「インキュベーション施設整備・運営費補助事業」の交付決定はされませんので注意しましょう。

申請資格

「インキュベーション施設運営計画認定事業」に認定された事業のうち、優れた取り組みを行う事業者。ただし大企業(みなし大企業を含む)は除きます。

補助対象期間

補助対象期間は、下記の整備・改修費及び運営費の項目ごとに最長2年間と定められています。ただし、2つの項目の補助対象期間を通算すると、最長3年間です。

整備・改修費交付決定から最長2年
運営費整備・改修費の補助対象期間終了日の翌日から1年以上最長2年

補助率・補助限度額

補助額は、「整備・改修費」および「運営費」それぞれの経費区分ごとに算出されます。

補助率    2/3以内(補助事業者が区市町村の場合は、1/2以内)
※多摩産材を使用した整備改修及び多摩産材の什器等購入は該当部分について3/4以内
補助限度額・整備・改修費:2,500万円 
(補助事業者が区市町村の場合は、2,000万円)
・運営費:補助対象期間1年ごとに2,000万円
 (補助事業者が区市町村の場合は、1,500万円)

補助対象経費と補助対象外の経費の例

整備・改修費、運営費の補助対象経費は以下のとおりです。

経費区分経費明細
整備・改修費運営工事費、施工監理費、建物・施設取得費、不動産賃借料(工事期間中)、備品費、広告費
運営費人件費、備品費、備品等賃借料、建物管理委託費、広告費、専門家報酬、会場借上料

整備・改修費における補助対象経費と補助対象外の経費の主な例

工事費
項目内容
対象インキュベーション施設の整備・改修工事に係る経費(施設のレベルアップに寄与すると認められるもの)で補助事業実施のために直接必要なもの

【例】外装・内装工事費、建物付属設備工事費(電気設備・空調設備・給排水衛生工事等)、インキュベーションマネージャー室、相談室、施設入居者個室、コワーキングスペース、シェアオフィススペース等設置に係る工事費、施設入居者向けの駐車場・駐輪場整備工事費(※)
(※)施設運営のレベルアップに寄与しない単体の工事は対象外
対象外経費の例・インキュベーション施設整備に直接的に関係のない工事に係る経費
・一般的な市場価格に対して著しく高額なもの
施工監理費
項目内容
対象インキュベーション施設の整備・改修に関して必要な施工監理費
対象外経費の例・建築確認手数料(公納金)
・工事請負契約と関連性のないもの 
建物・施設取得費
項目内容
対象建物・施設・建物付属設備等の固定的施設の購入に係る経費(中古物件も含む)
対象外経費の例・土地の取得、造成に係る経費
不動産賃借料(工事期間中)
項目内容
対象インキュベーション施設運営事業者が、補助対象事業の遂行に必要な不動産を、補助期間を通じて都内に継続的に賃借する場合に支払われる賃借料。
ただし、工事期間中で施設に創業者等が入居できない期間に発生する経費のみ対象。
【例】賃借料、共益費
対象外経費の例・敷金・保証金など解約時に返還される経費及び礼金
・火災保険料、地震保険料
備品費
項目内容
対象インキュベーション施設の運営に必要な備品に係る経費
【例】机・椅子等のオフィス家具、PC・オフィス用品(複合機)等
1つあたりの購入単価が税込1万円以上50万円未満のものが補助対象
対象外経費の例・事務用消耗品、日用消耗品、修繕費用、保証料、保険料・中古品購入費、リースアップ備品の買取費、第三者に賃貸する備品購入費
広告費
項目内容
対象インキュベーション施設を不特定多数に対して広報する上で必要な経費
【例】新聞、雑誌への補助事業に関する広告掲載に要する経費、宣伝用パンフレット等の作成に要する経費、ホームページの作成に要する経費
対象外経費の例・市場調査費用又は調査の実施に伴う謝金等
・切手・はがきの購入費用

運営費における補助対象経費と補助対象外の経費の主な例

人件費
項目内容
対象本補助事業に直接従事するインキュベーションマネージャー及びスタッフ等に対して支払われる給与・賃金・謝金・委託料(パート・アルバイトを含む)
対象外経費の例・補助事業に直接関係のない業務
備品費
項目内容
対象インキュベーション施設の運営に必要な備品に係る経費
【例】机・椅子等のオフィス家具、PC・オフィス用品(複合機)等
1つあたりの購入単価が税込1万円以上50万円未満のものが補助対象
対象外経費の例・事務用消耗品、日用消耗品、修繕費用、保証料、保険料
・中古品購入費、リースアップ備品の買取費、第三者に賃貸する備品購入費
備品等賃借料
項目内容
対象インキュベーション施設の運営に必要な備品を補助対象期間を通じて継続的に賃借する経費
【例】複合機リース・レンタル料、サーバーのレンタル料「継続的に賃借する期間」は、6カ月以上
対象外経費の例・自動車、バイク、自転車等のリース・レンタルに関する賃借料
建物管理委託費
項目内容
対象インキュベーション施設の管理にあたり必要な外部委託費用
【例】清掃業務委託費、警備委託費
対象外経費の例・認定施設(都が認定した箇所) 以外の建物管理委託に関する費用
広告費
項目内容
対象インキュベーション施設を不特定多数に対して広報する上で必要な経費
【例】新聞、雑誌への補助事業に関する広告掲載に要する経費、宣伝用パンフレット等の作成に要する経費、ホームページの作成に要する経費
対象外経費の例・市場調査費用又は調査の実施に伴う謝金等
・切手・はがきの購入費用
専門家報酬
項目内容
対象施設が主催する相談・セミナー・イベント等にあたり外部専門家に支払われる経費【例】相談員として配置する弁護士や中小企業診断士への報酬、セミナー講師への報酬(専門家報酬の上限は、一人につき時間単価税抜13,000円)
対象外経費の例・利用者に対する支援、施設の普及・PRまたは創業の啓蒙・啓発に関係ないと認められる相談・セミナー・イベント等に要する専門家報酬
会場借上料
項目内容
対象施設が主催する相談・セミナー・イベント等にあたり会場借上料が生じる場合の費用
【例】会員・非会員混合の交流会を開催するために100名程度収容できる会議室を借り上げる際の借上料
(会場借上料の上限は、開催1回につき税抜10万円)
対象外経費の例・会場借上料に、それ以外の費用が含まれ合算されている経費

申請・審査の流れ

「インキュベーション施設運営計画認定事業」と「インキュベーション施設整備・運営費補助事業」は、申請後同時進行で審査が実施されます。申請・審査の流れは以下の表の通りです。

【申請・審査の流れ】

順序インキュベーション施設運営計画認定事業(東京都)インキュベーション施設整備・運営費補助事業(東京都中小企業振興公社)
1募集開始募集開始
2認定申請予約補助金申請予約
3認定申請補助金申請
4書類審査書類審査
5現地調査現地調査
6面接審査
7総合審査会
8総合審査会
9認定決定交付決定

インキュベーション施設運営計画認定事業に関するQ&A

申請をする際によくある問い合わせについて、紹介します。
(参考:東京都労働産業局「令和4年度 インキュベーション施設運営計画認定事業Q&A」」)

個人事業主は対象となる?

個人事業主は対象外です。会社法第2条第1号で規定する会社(ただし、第8号に規定する「地方銀行」を除く)を対象としています。

本社が都外にある事業者でも申請可能?

都内にインキュベーション施設がある又は持つ予定であれば申請可能です。

必須要件にある「インキュベーションマネージャー」とは何?

インキュベーションマネージャーとは、これまでに創業支援実績があり、入居者への具体的な経営相談等を行うことができる人物のこと。インキュベーションマネージャーには、具体的な定義、必要資格などは設けられていませんが、単に受付や建物管理を行うだけの方はインキュベーションマネージャーには該当しません。

過去に不認定となった事業でも再申請は可能?

再申請も可能です。過去に不認定となった場合でも、施設運営のレベルアップを図る等、一定の基準を満たし申請内容を変更した場合であれば、再度の申請において認定される可能性があります。

分野特化型の分野は「IT」、設備は「パソコン」でも問題ない?

分野がソフトウエア業などの情報通信業であっても問題ありません。しかし、設備が通常の事務用のパソコンのみでは分野特化型の設備としては不十分です。その分野・業種で事業を行うのに必要なスペックの設備をそろえ、起業支援に十分であることを説明する必要があります。

令和3年度認定事業

過去の認定実績として令和3年度に認定された8事業所を紹介します。実際にどのような施設を運営しているのか、参考にしてみましょう。
(参考:東京都産業労働局「令和3年度認定事業一覧(8事業)(R3.12.10現在)」)

一般向けインキュベーション施設

認定施設名称事業者
Impact HUB Tokyo株式会社Hub Tokyo
GO TCA株式会社GO 
新宿アントレサロン銀座セカンドライフ株式会社
TURNNIG POINT エッグフォワード株式会社 

託児付きインキュベーション施設

認定施設名称事業者
コワーキングスペース Breath株式会社 Office Breath

分野特化型インキュベーション施設

認定施設名称事業者
KicSpace HANEDA株式会社きらぼし銀行
(仮)SHARE DEPARTMENT INAGI株式会社タウンキッチン
RYOZAN PARK GREEN(開設予定時期:2023年7月)東邦建材工業株式会社

むじんLOCKは、インキュベーション施設の省人化・無人化運営に貢献します

産業を活性化させるためには、新たな雇用の創出が期待できる創業者支援が重要です。東京都には認定・補助事業があることから、インキュベーション施設の運営は、ここ数年注目が集まっています。

株式会社コミュニティコムが提供する、スマートロック連携課金決済システム「むじんLOCK」は、これまでに、コワーキングスペース・シェアオフィス・貸会議室・ワーケーションを伴うテレワーク施設といったワークスペースなどで導入され、施設運営の無人化・省人化運営を実現しています。インキュベーション施設の運営を行う際には、ぜひ「むじんLOCK」の導入もあわせて検討してみてはいかがでしょうか。