コラム

中小企業にこそDXが必要!推進ポイントや成功事例などを解説

中小企業にこそDXが必要!

近年、大企業を中心にDXが進む中で、中小企業においてもDXを推進したいと考える企業も多いのではないでしょうか。一方で、中小企業の中には「どのようにDXを進めたらよいのかわからない」などの課題感から、なかなか取り組めていない企業もあるでしょう。本記事では、中小企業における効果的なDXの進め方や成功させるためのポイント、成功事例などを紹介します。

中小企業でDXが進まない理由

大企業ではDX推進の流れが活発ですが、中小企業においてはまだ浸透していないのが現状です。中小企業庁「2022年版中小企業白書・小規模企業白書概要」によると、近年のデジタル化によって業務効率化などに取り組む事業者は増加傾向にあります。一方で、ビジネスモデルの変革や競争力強化などのDXまで取り組めている事業者は約1割にとどまっていることがわかります。DXを推進する上で、中小企業ではどのような課題を抱えているのでしょうか。
(参考:「IoTとDX、ICTの違いとは。DXの定義やメリットを解説」)

経営者が明確な経営戦略を持っていない

企業のDX推進においては、経営層が明確な経営戦略を持っていることが大切です。DXを実現するには、ビジネスモデルを始めとする組織全体の変革を伴うことが多いでしょう。このため、企業の方針を決める経営層がDXで「どのようなことを実現したいか」という明確なビジョンを描いて社内に共有することで、企業全体でDXを推進していくことができるのではないでしょうか。

IT人材の確保と育成に課題がある

DX推進において、AIやビッグデータの活用など最新のITに精通している人材の確保が必要です。しかし、そのようなIT人材は急速なデジタル化により不足しており、市場価値も高いため、中小企業ではなかなか獲得が難しいこともあるでしょう。自社でIT人材を確保できない場合は、ITベンダーに委託することや、IT教育プログラムなどを導入し自社の社員にIT教育をして育成することを検討する必要があるでしょう。

予算を確保できない

DXを推進するにあたり、新しいツールの導入やIT人材育成などの費用が必要です。従来のシステムをデジタル化しようとするとコストがかかるため、DXが進まないこともあるでしょう。補助金制度を活用するなど、工夫してDX推進のための費用を確保しましょう。

中小企業こそDXに取り組むべき理由

人材面やコスト面などの理由で、なかなかDX推進ができないという中小企業もあるでしょう。しかし、中小企業こそDX推進が必要だといえる3つの理由があります。

中長期的な目線で業務効率改善を行える

中小企業では、長期にわたり人材不足が課題として挙げられています。労働人口の減少が懸念される中、今後も人材不足はより一層深刻化すると考えられるため、生産性を向上していくことが中小企業の成長には重要となるでしょう。生産性を向上するためのITシステムやツールの導入などは初期投資がかかりますが、まずはできるところからDX推進を行うことで、中長期的な視点を持って業務効率化を図ることができるでしょう。

低コストで導入可能なITツールの増加

最新のITシステムやツールの導入には初期投資がかかることから、コスト面がDX推進のネックとなる中小企業もあるでしょう。しかし、近年では安価に利用できるさまざまなITツールやサービスが普及してきています。こうした安価なツールを活用し、まずは企業内の一部の部署などでDX推進を始めて、徐々に企業全体へ浸透させるとよいでしょう。

DX投資促進税制による控除で節税できる

経済産業省は、企業がDX推進のため税額控除が受けられる「DX(デジタルトランスフォーメーション)投資促進税制」を創設しました。DXの実現に必要なデジタル関連投資に対して、税額控除(5%/3%)または特別償却30%を措置する制度です。(2年間の時限措置)コスト面がネックとなりなかなかDX推進できなかった中小企業も、このような制度の活用を検討することで取り組みやすくなるのではないでしょうか。

(参考:経済産業省「令和3年度(2021年度)経済産業関係 税制改正について

中小企業における効果的なDXの進め方

中小企業のDX推進を支援するため、経済産業省は2022年4月に「中堅・中小企業等向け『デジタルガバナンス・コード』実践の手引き」を発表しました。ここからは、同手引きを参考に、中小企業に最適なDXの進め方を解説します。

経済産業省「デジタルガバナンス・コード」実践の手引きとは

「中堅・中小企業等向け『デジタルガバナンス・コード』実践の手引き」は、経済産業省が中堅・中小企業などのDX推進に向けてまとめたものです。「デジタルガバナンス・コード」とは、持続的な企業価値向上のため、デジタル技術の導入に取り組む経営者に向けて実践すべき事柄を取りまとめた資料のことで、中小企業においてもDX推進の必要性を説いています。この手引きの中で、DX実現に向けたプロセスは「1.意思決定」「2.全体構想・意識改革」「3.本格推進」「4.DX拡大・実現」の4段階のプロセスで示されています。4段階のプロセスを順番に見ていきましょう。

①意思決定

まずは、経営層が自社でDX推進に取り組む意思決定を行います。CEO(最高経営責任者)やCIO(最高情報責任者)、CDXO(最高DX責任者)などが主体となり、自社の存在目的・存在意義(パーパス)に基づいて経営ビジョンや戦略を策定します。まだパーパスが明確になっていない企業は、この機会に明確なパーパスを策定し、5年後~10年後に自社がどのような企業を目指すのかを描きましょう。さらに、DX推進チームを設置するなどして体制の整備を行います。

②全体構想・意識改革

次に、DX推進チームを中心に策定した経営ビジョンを実現するために解決すべき課題を洗い出し、DXにより自社にはどのような変革が必要なのか具体的に検討します。また、社内全体の意識改革を行い、従業員一人ひとりが主体的にDXに取り組めるようビジョンの共有や環境の整備を進めましょう。さらに、デジタル技術を導入するための土台づくりも行う必要があります。データをうまく利活用できるよう、システム環境の整備なども併せて準備しておくとよさそうです。

③本格推進

これまでの準備を基に、DXを本格的に推進します。業務プロセスの改善や新たな価値を生むデータの活用/システム構築を進めましょう。データサイエンティストやサイバーセキュリティエンジニアなどを中心に、中長期的な視点を持ってトライアンドエラーを行い、自社のDX成功事例を蓄積していきます。

④DX拡大・実現

最後のステップでは、顧客接点やサプライチェーン全体へ変革を展開していきます。顧客に新たな価値を提供するとともに、さらなる改善を進めていきましょう。また、継続的なDX推進により企業のさらなる成長を目指すためにも、内部のDX人材育成や外部のDX人材確保も並行して行うとよいでしょう。

中小企業がDX推進を成功させるポイント

中小企業がDX推進を成功させるためには、以下のようなポイントがあります。

DX推進の事業目的を明確化する

中小企業では、経営層がリーダーシップを発揮して変革を行うことで、大企業よりもスピード感を持ってDXに取り組むことができるでしょう。このため、経営層が明確にビジョン策定を行い、主体的にDXを推進していくことが大切です。明確な目標を掲げることで、従業員一人ひとりがDXに取り組みやすい環境を早期に整えることにつながるでしょう。

まずは身近なところから改革を始める

実際にDXに取り組む企業の事例をみると、まずは身近で取りかかりやすいところから始めるケースが多いようです。小規模からスモールステップでデジタル化を行うと、問題が起きた場合に大規模な見直しや改善のリスクを抑えることにつながります。成功体験を積み重ねながらノウハウの蓄積や人材の確保・育成を進めて徐々に組織全体の変革へ拡大していくことで、着実にDX推進をしていくことができるでしょう。

政府の補助金を活用する

中小企業や小規模事業者がITツールを導入する際に活用できる補助金として「IT導入補助金」があります。ITツール導入による企業の業務効率化や売上アップを支援するための補助金制度です。DX推進を成功させるため、このような補助金の活用を検討するのもよいでしょう。

中小企業のDX成功事例

ここからは、DX推進に成功した中小企業の事例を紹介します。

株式会社ヒサノ

株式会社ヒサノは、熊本市に本社を置く運送・機械機器設置工事業を行う企業です。2016年に発生した熊本地震をきっかけに、業務の属人化やブラックボックス化に危機感を持ち、IT経営の専門家との対話を通して経営ビジョンを策定。5年後のビジョンを明確化し、デジタル技術を活用した業務変革に着手しました。DX推進チームとして「チーム・ヒサノ」を設置し、これまで紙媒体で管理していた配車などのプロセスをクラウドシステムでの運用に切り替えたほか、各業務システムとデータ連携し、会社全体で業務の最適化を行うことに成功しました。

有限会社ゑびや

有限会社ゑびやは、三重県伊勢市で土産物店や和食堂などを営む創業150年の老舗飲食店です。これまで「勘と経験」に頼る経営を行っていましたが、事業継承をきっかけに「データを根拠をした経営」に転換することを決意。天気や来店数、売上などのデータ収集から始め、7年かけて予測精度の高いAIを開発し約75%もの食品ロスを削減することに成功しました。客単価は3.5倍、売上は5倍、利益は50倍にまで増加し、身近なところから徐々にDXの取り組みを拡大した事例といえるでしょう。

株式会社木幡計器製作所

株式会社木幡計器製作所は、1909年に創業した大阪市の圧力計製造・販売を行う老舗企業です。既存市場は将来先細りするかもしれないという懸念をきっかけに、新たなビジネスモデルを模索し、製品納入後の計器計測や管理業務に着目。これまで計測や保全に関する業務は主に納入先のユーザーや、ビルメンテナンス事業者が担当するのが一般的でしたが、人材不足やコスト削減を理由に省力化されてきていることに気付いたそうです。そこで地元企業と連携しながらIoT技術を活用した圧力計を開発し、計器の遠隔監視によって計測結果をクラウドサーバに送信できるシステムを実現しました。その結果、熟練の技術者以外でも点検業務を効率的に行うことが可能となり、業界内で提供サービスの差別化を図ることに成功しました。

成功事例を参考に、中小企業こそDX推進に挑戦しよう

人材不足が加速する中、中小企業においてもDX推進への取り組みを積極的に行うことは重要です。まずは、経済産業省の「デジタルガバナンス・コード」実践の手引きや、DXに成功した中小企業の事例などから、自社でできることを洗い出してみるのもよいでしょう。デジタル技術の活用を通して、自社に合ったDXを実現しましょう。